身代わり姫君の異世界恋綺譚

「清雅様、いかがなさいましたか？」

桔梗ではなく、女房頭（にょうぼうかしら）の藤が慌ててやってきた。

女房達を牛耳る一番上の人間だ。

「藤！　客人の皿の中に弱ったこおろぎが入っておったぞ！」

「まあ！　なんと言うことでしょう！」

藤は驚いて目を真ん丸くした。

「すぐに料理を作った者と桔梗を連れて参ります」

御簾の内側で聞いていた真白は大げさになってしまった事に驚き、紫鬼の腕から立ち上がった。

「あ、あの、もういいんです。大丈夫ですから」

御簾を上げて真白は言った。

「清雅、お願いだから……」

藤は女房たちから噂を聞いていたが、真白を見て驚いた。

明るい茶色の髪に茶色の瞳、顔は先日まで世話をしていた清蘭に良く似ており藤は声も出せなかった。

我に返ると、急いで藤は頭を下げた。