身代わり姫君の異世界恋綺譚
御簾の向こうにいる琴姫からは、物の怪の類を清雅は何も感じられなかった。

清文だけが、うっすらと残る物の怪の気配に眉根を顰めたのだ。

もちろん、御簾の向こうにいる姫君から香る物の怪の匂いだ。

物の怪の匂いは陰陽師ではなければ香る事はないが、ひどい悪臭なのだ。

物の怪に取りつかれた者は陰陽師から姿を分からぬよう、香をたっぷり焚く。

そうすれば陰陽師から正体をくらませると考えて。

「わらわの女房、山吹がとんだ気苦労をしたものです。わらわは物の怪になど取りつかれておりませんのに」

御簾の向こうから鈴の音を転がしたような笑い声が聞こえた。

昼間の琴姫では話にならない。

「父上、琴姫様は物の怪に取りつかれておりませぬ。山吹殿の取り越し苦労だったように思えますが?」

清文は「そうらしいな」と口にして2人は陰陽師寮へ戻って行った。

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