身代わり姫君の異世界恋綺譚

怒り

清雅は紫鬼がこんなに焦る顔を見たことがなかった。

いつも冷静で表情を変えない紫鬼。

以前、清雅を助けるために人を殺した時もまったく表情は変わらなかった。

姉の清蘭が亡くなり、知った時も表情を変えなかった。

あの時は愛する人を失ったのにどうしてこうまで変わらないのかと清雅は腹が立った。

それが今、紫鬼は両掌をギュッと握り締め真白の意識を探っている。

――紫鬼は本気で真白を……。

突然、清雅の耳に雨の音が聞こえてきた。

そして強い風の音も。

清雅は縁側に立った。

「さきほどまで月が出ていたのに」

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