身代わり姫君の異世界恋綺譚
「真白から離れろ」

静かに言う声は怒鳴られるよりもぞっとするものだった。

――し……き……?

朦朧とする意識の中で紫鬼の姿が目に入った。

――幻……かも……。

あまりに会いたくて見せた幻影。

真白はうっすらと開いた目でその姿を見ると、意識が遠のいた。

忠臣と道重は紫鬼の登場に驚いている。

馬乗りになっている忠臣は呆然と紫鬼を見た。

2人は紫鬼の名前を知っていたが、どのような風貌をしているか知らなかった。

「お、鬼だーっ!」

我に返った忠臣は叫んだ。

紫鬼は何も持っていない手から長剣を出し忠臣の首にあてた。

「忠臣様っ!」

道重も部屋の隅に放られていた剣の鞘を掴み引き出すと構えた。

「いつまで真白の上にいる? 早くどけ」

ゴオオオォォォォと地鳴りの音が激しく響き渡る。

忠臣と道重は何事かと、辺りをキョロキョロする。

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