身代わり姫君の異世界恋綺譚

「う～ん。私、昔から音楽は苦手だったの……」

真白はそう言って痺れた足を伸ばし擦る。

「それに、水仕事もダメですわ。手が荒れてしまいますから」

自分の食べたものを炊事場で洗うことにしたのだ。

「そんな事言っても……」

女房の中ではやっと真白の存在が害のなすものではないと分かり、普通に接してくれるようになったところだ。

小さくため息を吐いて中庭へと視線を移した。

「あ……」

障子が開けられていた廊下の向こう側に紫鬼の姿が見えた。

紫色の髪は横で適当に結び、薄紫色の着物を来た紫鬼は優美だった。

建物の影から女房たちが紫鬼の姿を覗くようにしてきゃあきゃあ騒いでいるのが目に入る。