身代わり姫君の異世界恋綺譚
舌で触れたものを治す力があると言ったのを思い出す。

――じゃあ、これは……今ので……?こんな事が出来るのはやっぱり人間じゃない。

「あなたは……誰?」

「教えただろう? 我は紫鬼だ。紫に鬼と書く」

「お、鬼っ?」

「紫鬼はそこらにいる悪さをする鬼ではないぞ!」

驚いている真白に清雅が口を挟む。

――悪さをする鬼って……?

「じゃあ、どうして怪我を治せるの?」

「紫鬼は高尚な鬼だ。神様から授けられた力を持つ者なのだ」

「神……さま……?」

真白はあまりの突拍子もない言葉に笑った。

「何を笑う!?」

清雅が自分の手を畳みにバタッと叩きつけた。

「だって、神様って……」

清雅の真剣な顔に、真白は言葉に詰まる。

――よく分からない会話をしていたら、頭がおかしくなりそう。

「2人ともごちゃごちゃとうるさい。清雅は出て行け」

紫鬼の瞳は、真白の擦りむいた膝を見ている。

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