身代わり姫君の異世界恋綺譚
「これを……」

「まあ、私が片付けましたのに」

お膳を真白から受け取って、桔梗はすまなそうに言う。

「桔梗さん、私の事は真白って呼んでください。居候だし、様付けされるのは……」

「それは困ります。清文さまのお客様でございますから」

そう言われて、寂しい気持ちになった真白は無理に笑顔を作り「穴を探してきます」と言って歩き出した。

――なぜ、あの人たちは私の顔を見て逃げるのだろう……。ここでは私は受け入れられない……。早く帰りたい……帰りたいよぅ……。

真白はここの人たちと仲良くなりたかった。ひとり、わけのわからない世界に来て、心細かった。

唯一、話をしてくれるのは桔梗だが、彼女も一線引いたような態度なのが寂しい。

真白は考え込みながら、とぼとぼと塀に向かった。

塀に向かう途中、廊下の隅で女性たちが話す言葉が聞こえた。

『まるで鬼のような髪の色だわね。顔は清蘭様にそっくり。でもきっと鬼が清蘭様に似せて陰陽寮の頭、清文様や清雅様を惑わしているに違いないわ』

――言っている意味がわからないけど……胸が痛いよ……。

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