身代わり姫君の異世界恋綺譚
「なぜ男児の格好をしている?」

紫鬼が不機嫌そうに言う。

「だって……この方が動きやすいから。清文様に頼んだの」

「……着物は仕方ないとして……この髪は気に入らぬな」

紫鬼の手が真白の髪に伸びると、髪を結んでいた紐が解かれた。

「あっ……」

さらっと肩に明るい茶色の髪が落ちる。

「紫鬼っ。駄目だよっ」

紫鬼の手から紐を奪うと、急いで髪の毛を結ぼうとする。

その腕を紫鬼の手が止める。

「どうしてだ?」

「……皆が……この髪を……」

「私は好きだ。この明るい色は豊穣の麦の色だ」

紫鬼の手が真白の髪をゆっくり梳いていく。

< 53 / 351 >

この作品をシェア

pagetop