身代わり姫君の異世界恋綺譚
「紫鬼……」

真白は紫鬼の手をそっと掴むと、頬に引き寄せた。

「ありがとう 紫鬼……」

――紫鬼はこの世界で、唯一私を理解してくれる。

紫鬼の手に触れて何かが違うと気づいた。

――あっ……爪……。

紫鬼の爪が形良く切られていた。

「紫鬼、爪を切ったんだね?」

「ん? ああ。お前を傷つけたくないからな」

真白の顔がくしゃっと崩れ泣き出した。

「真白、なぜ泣く?」

「紫鬼が温かいから……」

――私が温かい?

温かいと言われ、戸惑う紫鬼だが目の前で泣いている真白をどうにかなぐさめてやりたくて肩を抱き寄せた。

紫鬼は真白が泣き止むまで動かなかった。

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