身代わり姫君の異世界恋綺譚
散々泣きじゃくったと、真白はゆっくり顔を上げた。

「ありがとう。紫鬼……がんばれそうだよ」

――紫鬼が傍にいてくれれば……。

「真白、もう穴探しはやめなさい」

「えっ?」

「この屋敷の塀に、穴はどこにもない」

突きつけられた事実に、真白はかぶりを振る。

「そんな事ないっ! 私はこの屋敷の穴から来たんだからっ」

認めたくない気持ちで真白は紫鬼に叫んでいた。

「真白、落ち着くんだ。また身体の具合が悪くなるぞ」

紫鬼は感情の高ぶりで真白の体調が左右されはじめたのを感じた。

感情が高ぶると穢れを寄せ付けてしまう。

先ほどの悲しみで真白の体調は崩れ始めていた。

そして今も……。

「絶対に帰るのっ!」

再び、子供のように泣きじゃくる真白の身体が突然大きく揺れた。

そして人形のように紫鬼の腕の中に倒れた。

< 55 / 351 >

この作品をシェア

pagetop