身代わり姫君の異世界恋綺譚
「えっ? 停電……?」

辺りは真っ暗だったのだ。

――今さっきまで街灯の灯りで、少なくとも辺りは見えたはずなのに。

そして追いかけてくると思った少年たちは姿を現さない。

真白は綺麗な弧を描く眉を寄せた。

――空気が違う気がするし……寒かったのに今は蒸し暑い。

いろいろな虫の音がいやに耳につく。

――まるで夏の夜みたい……。
私、夢を見ているの?
そうよ。頭を打って気を失っているに違いない。そうでなければ、冬だったのに、夏のこの場所にいるはずがない。



その頃、壁際にいた少年たちは目を疑っていた。

何度も目を擦り、真白を押し込んだ穴の場所を見つめる。

「おい! 嘘だろ……穴が消えるなんて!?」

真白を穴に押し込んだ後、入ろうとすると、どこに穴が開いていたのか分からなくなった。

「ばかな! 今まであったのに! あの子はどこへ行ったんだ!?」

少年はヘルメットを外し、コンクリートの壁をペタペタと手を這わせる。

「「……穴が……どこにも……ない……」」

少年は顔を見合わせた。

薄気味悪い出来事に、少年たちは脱兎のごとくその場を離れた。


そしてその夜、ひとりの女子高校生が行方不明になった。

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