身代わり姫君の異世界恋綺譚
――紅? 美しい声の人……。

紫鬼が立ち上がり、障子を開けるのを真白はぼんやり見ていた。

紫鬼の姿の向こうに、美しい黒髪の紅い着物を身につけた女性がチラッと見えた。

――紫鬼の恋人……?

2人の会話は聞こえないが、親しげなのは分かる。

真白はそんな2人を見ていたくなくて、立ち上がると布団を畳み始めた。

「真白、そんなことは女房にさせろ」

紫鬼がいつの間にか側にいた。

「そんなことって……自分で寝た布団なんだから、自分で畳むのが普通だよ?」

「お前の世界の話だろう? この世界の姫はそのようなことはしない」

「姫っ? 私、姫じゃないし!」

紫鬼の突拍子もない言葉に、真白は笑う。

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