身代わり姫君の異世界恋綺譚
真白の意識がまったくない。

顔色は青ざめるのではなく土気色。

紫鬼はこめかみの傷を後回しにして、真白の唇に唇を重ねた。

唇を合わせると、真白に起こった出来事が紫鬼の中に入って来た。

――紅?

紅が真白に嫌いだと言っている。

清雅と清文に表門で会い……。

そして女房に水をかけられ出て行けと罵倒されたこと。

外に出て塀を伝う真白。

穢れで意識が茫然とする中、「鬼」と呼ばれ石を投げつけられた。

紫鬼はこの小さなか弱い娘が可哀想になった。

――どうしたものか……。真白を守ってやるには。我か清雅が付いていればこんな目に合わないだろう。

清雅は陰陽師という仕事がある。

ずっと真白に付き添っているのは無理だ。

――では私か……。

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