身代わり姫君の異世界恋綺譚
「失礼いたします。夕餉をお持ちしました」

御簾の向こうから膳をかかえた桔梗が声をかけた。

「入れ」

清雅は御簾を上げ、桔梗を中に入れた。

紫鬼はお膳を真白の前に置く桔梗を見ていた。

――真白に水をかけたのはこの者ではないな。

真白はまだうつむいたままだ。

「紫鬼、真白のこめかみの傷が治っていないぞ?」

俯く真白のこめかみにはどす黒い血がこびりついている。

その下から鮮血がのぞく。

「あっ……」

真白は思いだし、白く綺麗な指をこめかみに持って行くと、顔を歪めた。

屋敷の外で鬼扱いされたことを思い出した。

――私は外でも受け入れられなかった……。

悲しみが胸を襲い、目頭が熱くなり涙が零れそうだ。

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