他人の彼氏
「余ってるのがないならいいよ。
大丈夫、ありがとう」


「大丈夫なわけねぇだろ。
ほら、着とけ」


そう言いながら
私の頭に被せるように
パーカーを投げた。


「でも・・・・
お兄さんが・・・」


「俺は、鉄板の前だから
寒くねぇの。
ちょうど、その上着捨てようと思ってたから
お嬢ちゃんにやるよ」


捨てようと・・・?


でも、昨日洗ったって・・・


というか、

まだ全然 着用感というものがなく
明らかに新しいんだけど・・・


「ありがとう・・・・」


「いーえ、どういたしまして」


袖を通してみると

やはり・・・予想通り・・・


「ははは、やっぱ
でけぇな?」


そう笑われているけれど・・・


着心地はすごく良くて・・・


「何か、気に入っちゃった。
ほんとに もらっていいの?」


「マジで?
そう言われると うれしいわー
遠慮なく もらってやって」


自分でも 本当
ずーずーしいなって思うけど

このお兄さんの前では
変に気を張らないでいいというか
プライドとか、遠慮とか
そういうのなしで
沈黙の空間も、居心地良く感じてしまうくらい

素の自分でいられる場所になりつつある。
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