その男、小悪魔につき。【停滞中】




「またはぐらかすつもり?少しは真面目に答えて!」



「いやいや、本当に。」


はぁ、と溜め息を吐きながら千尋くんの視線の先を辿る。


同じ手に乗るとでも……



すると机の置時計はどう頑張って電車を乗り継いでも、会社に遅刻になる時刻を指していた。



「…えっ、ちょっ、もっと早く言ってよ!!」



慌ててソファーに置いてあった鞄とコートを取り玄関へ向かう。



「彩月さん、マフラー忘れてます。」



パンプスを履いていると、千尋くんが髪をはらってマフラーを巻いてくれた。



「……ありがと。」



「あと、これ。よかったら」


とお弁当箱を差し出された。




「いい。あなたが食べて」



「…………。」



全然話そうとしてくれないので、若干突き放した言い方をすると、まるで捨てられた子犬のように見つめてきた。



うっ……何なのよ、もうっ……



「や、やっぱり頂きます……いや~、丁度お腹減ってて……」



作り笑いをして、お弁当箱を受け取ると千尋くんは満足そうな笑顔を浮かべた。



そんな笑顔に怯み、そそくさとドアに手をかけ思い出したように後ろを振り返る。



「あ、あの一晩お世話になりました。一応ありがとう。また改めて伺います。その時はちゃんと話して……下さい。」



「わかりましたよ。じゃあ、行ってらっしゃい」


< 10 / 110 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop