その男、小悪魔につき。【停滞中】
「またはぐらかすつもり?少しは真面目に答えて!」
「いやいや、本当に。」
はぁ、と溜め息を吐きながら千尋くんの視線の先を辿る。
同じ手に乗るとでも……
すると机の置時計はどう頑張って電車を乗り継いでも、会社に遅刻になる時刻を指していた。
「…えっ、ちょっ、もっと早く言ってよ!!」
慌ててソファーに置いてあった鞄とコートを取り玄関へ向かう。
「彩月さん、マフラー忘れてます。」
パンプスを履いていると、千尋くんが髪をはらってマフラーを巻いてくれた。
「……ありがと。」
「あと、これ。よかったら」
とお弁当箱を差し出された。
「いい。あなたが食べて」
「…………。」
全然話そうとしてくれないので、若干突き放した言い方をすると、まるで捨てられた子犬のように見つめてきた。
うっ……何なのよ、もうっ……
「や、やっぱり頂きます……いや~、丁度お腹減ってて……」
作り笑いをして、お弁当箱を受け取ると千尋くんは満足そうな笑顔を浮かべた。
そんな笑顔に怯み、そそくさとドアに手をかけ思い出したように後ろを振り返る。
「あ、あの一晩お世話になりました。一応ありがとう。また改めて伺います。その時はちゃんと話して……下さい。」
「わかりましたよ。じゃあ、行ってらっしゃい」