その男、小悪魔につき。【停滞中】
「ごめん、彩月さん。ちょっと待っててくれる?」
その焦ったような声に、私はもう頷くしかなかった。
「佳苗さん」
そう呼んで千尋くんは肩を支えながら、店から出ていってしまった。
誰なんだろう……
気になるなら聞けば良かったのに。
でもそう思う反面、どこかあの二人の間には独特の空気が漂っているように見えた。
それにきっと何も言わないって事は、聞いてほしくないことなんだろう。
「どうぞ」
スッと差し出されたカクテルは淡いピンク色。
綺麗だなぁ。
シュワシュワと泡がグラスの淵にあたって消えていく。