その男、小悪魔につき。【停滞中】




生まれてから27年間で間違いなく最大のピンチだと自分の中で警鐘が鳴っている。




ど、どうすれば……。まずこの人を起こして、事情を聞いて、謝って、お茶菓子……



すると唸っている声で、隣で寝ていた人がむくりと体を起こした。




「……はぁーぁ。おはようございます。」



「お茶菓子は花林堂の……」



「彩月さん」



「花林堂、いややっぱり洋菓子の方が……」



「……彩月さん」



「…え?」



声に驚き後ろを振り返ると、上下グレーのスウェットを着た男が気だるそうに首を傾げていた。



お、男……?!しかも若い……



も、もしかして、私……



お酒が弱いのに記憶を無くすまで呑むなと、真緒に口酸っぱく言われ続けていたことが、今更ながら身に染みる。



慌てて自分の体に目線を移すと、七分丈の紺のパンツは履いていたが上はキャミソール姿。


コートとマフラーは壁にかけてあったが、ベージュのセーターは床に落ちていた。



こ、これはグレーゾーン……


サーっと血の気が退き、また頭を抱えた。



するとそんな私を見て、男はくくくっと喉を鳴らして笑った。



「忙しい人ですね……ところで彩月さん、時間大丈夫ですか?」



「何で私の名前……」



「ん?」



「……何で……」



「あ、覚えてないですか?」


< 2 / 110 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop