その男、小悪魔につき。【停滞中】
生まれてから27年間で間違いなく最大のピンチだと自分の中で警鐘が鳴っている。
ど、どうすれば……。まずこの人を起こして、事情を聞いて、謝って、お茶菓子……
すると唸っている声で、隣で寝ていた人がむくりと体を起こした。
「……はぁーぁ。おはようございます。」
「お茶菓子は花林堂の……」
「彩月さん」
「花林堂、いややっぱり洋菓子の方が……」
「……彩月さん」
「…え?」
声に驚き後ろを振り返ると、上下グレーのスウェットを着た男が気だるそうに首を傾げていた。
お、男……?!しかも若い……
も、もしかして、私……
お酒が弱いのに記憶を無くすまで呑むなと、真緒に口酸っぱく言われ続けていたことが、今更ながら身に染みる。
慌てて自分の体に目線を移すと、七分丈の紺のパンツは履いていたが上はキャミソール姿。
コートとマフラーは壁にかけてあったが、ベージュのセーターは床に落ちていた。
こ、これはグレーゾーン……
サーっと血の気が退き、また頭を抱えた。
するとそんな私を見て、男はくくくっと喉を鳴らして笑った。
「忙しい人ですね……ところで彩月さん、時間大丈夫ですか?」
「何で私の名前……」
「ん?」
「……何で……」
「あ、覚えてないですか?」