その男、小悪魔につき。【停滞中】
なんかっ……
「千尋くん!!」
何だか千尋くんが隣にいるのに遠くにいるような感覚に襲われて、私は千尋くんの腕を取った。
「え、あぁ。すみません。何かボーッとしちゃって……」
「ううん。それより何かあっ」
気になって聞こうとすると、千尋くんに声を被せられた。
「彩月さん、今夜俺の家泊まりません?」
「え?……家に?」
「何改まってるんですか?もう泊まった事あるのに……」
千尋くんがクスクス笑ってくれて、何だか少しホッとする。
でもさっきの悲しげな瞳は何だったんだろう……
「じゃあコンビニ寄って必要な物買っていきましょうか。」
「えっ、まだ行くなんて一言も…」
「彼氏のお願い聞いてくれないんですか?」
う……その子犬のような瞳はずるい……。
渋い顔をして固まると、千尋くんはフフッと笑って私の手を取って歩きだした。
えぅ、指が絡まって……!?
「ちょっ……行くから!!手を離そ」
「彼氏ですからね。」
千尋くんは振り返ってそう良い、もっと繋いでいる手に力を込める。
もう敵わない、と諦めそのまま千尋くんの行く方向へ黙ってついていく。
気になっていた事は何一つ聞けずに。