その男、小悪魔につき。【停滞中】
「ここが資料室。」
それから無理矢理手を離して無言で歩いて資料室の前に着くと、千尋くんは扉を開けて私の背中を押した。
「ちょっと…、」
「驚きました?」
振り返るとまるで悪戯が成功した子供のような笑顔で、胸がしめつけられる。
はぁ……これはモテる訳だ。
「もう。何で言ってくれなかったの?もうめちゃめちゃびっくりしたんだから。」
「アハハ、すみません彩月……いや、蓮見先輩?かな。」
あ、そうだ。
「あのさ?会社ではその……私たちの事は……」
何だか言いづらくて言葉に詰まると、千尋くんは間髪いれずに言い放った。
「嫌です。」
「え、何で!」
何で隠したいんですか?と言うと、資料の棚からファイルを探し始めてしまった。
「それは……、」
あなたと仮にも付き合ってるなんて知れたら、女子社員からの目が怖いんですよ!!
なんて言えなくて、隣に立つ千尋くんを苦笑いで見上げる。
「はぁ…わかりました。」
「本当?ありがとう!もしかして資料って部長に頼まれたやつ?」
「はい。なんでも来月の清涼飲料水のcmがーーー」