その男、小悪魔につき。【停滞中】
えっと……
タクシーってこんなに狭かったっけ?
隣に座る千尋くんの横顔を盗み見すると、頬杖をついて外を眺めている。
なんか……
「俺の顔に何か付いてます?」
横目で私を見て、しれっとした表情で聞いた。
「えっ、いやその、」
焦る私を見て、千尋くんはまた窓の外を眺めた。
「……冗談ですよ」
その横顔から覗く耳が少し赤い気がして、胸がドキッと音をたてる。
「ち、千尋く」
「寝て良いですよ。着いたら起こすんで」
「……うん。そうする。ありがとう」
これ以上は耐えられない気がして、私は目を閉じた。
何てバカなことを聞こうとしたんだろう。
心地よく揺れるタクシーの窓側に体を預けて、私は夢へと落ちていった。