その男、小悪魔につき。【停滞中】
「でもっ……」
「彩月さん。」
「……はーい。わかったよ」
そしてまたスプーンを取って、コーンポタージュを飲み始めると千尋くんがクスクスと笑った。
「どうかした?」
「あ、すみません。何でもないです」
「えぇ~。何よ。気になるから言ってよ」
「……ただ可愛いなって見てただけです」
全く予想していなかったその答えに、私は驚いてスプーンを落としてしまった。
「わっ……」
「大丈夫ですか?」
千尋くんはすぐに飛び散ったスープを拭いて、私に目を向ける。
上目遣いで見つめられる形に耐えられなくて、私は目を反らした。
「会社っ、行かなくて大丈夫?」
「そうですね。もう行かなくちゃ。この家好きに使ってください。あと鍋にお粥ありますから食べられそうだったら……あとこれ」
ポケットから何かを取り出して、私の手のひらに乗せた。
「持っててください。じゃ行ってきます」
すると千尋くんはごく自然に私の前髪を避けると、額にキスを落とした。