その男、小悪魔につき。【停滞中】
「い、行ってらっしゃい」
私の言葉に笑顔を向けて、千尋くんは椅子にかけていたジャケットを持って部屋を出ていった。
そして扉の鍵を閉める音が聞こえ、私は手のひらに乗るそれを見つめる。
合カギ……
この感じは何なんだろう。
胸をくすぐられるような、そんな感覚。
もしかしてこれって、まさか……
「完全にやられたわね彩月。あのイケメンくんに」
「……そうなのかなぁ…?」
「じゃなかったら何なのよ。はぁ、全く。彩月ったらつくづくイバラの道を選ぶんだから」
週末の飲み会の隅でコソコソと真緒と話していると、女子社員の甲高い声が聞こえてきた。
「えーっ、櫻井くん彼女いないんですかー?」
視線を向けると数人の女子社員に囲まれて苦笑いの千尋くん。
「ほらね、今日もおモテのようですよ?」
「……だね。」