その男、小悪魔につき。【停滞中】
軽く睨まれているこの状況に耐えきれなくなっていると、額にデコピンされた。
「いたっ」
「彩月さんって本当に無防備というか、馬鹿というか。」
「なっ…」
「それに加え鈍感だし、押しに弱いし」
うっ、確かに真緒にもよく言われますけども。
「でもっ、千尋くんだってさ……」
「何ですか?」
「女子社員に囲まれて、こーんな鼻の下伸ばしてたじゃん」
変な顔をして小言を言うと、鼻をギュッと摘ままれた。
「そんな顔してません。」
「してましたー。さっきのお店で……」
フワリと千尋くんの前髪がかかったと思ったら、それと同時に唇を塞がれた。
ちょうどタクシーの運転手さんには見えないような角度で。
それからまるでスローモーションの様にゆっくりと離れていく。
一瞬のキスに驚いて目を見開くと、千尋くんは聞かれないようにか、小さな声で私の目を見つめて言った。
「彩月さん俺の事、好き?」
「え……?」
「好き?」
いつもより熱の籠った瞳で見つめられ、私は言葉に詰まる。
酔いのせい、と言ってしまえば楽になるかもしれない。
大体恋をすることさえ、面倒だし怖かった。
二度とあんな思いはしたくない。
でも私は確かにこの、目の前で不適に微笑む 千尋くんに、心を奪われてしまっていたのだ。
「だとしたら?」
そう言うと、千尋くんは不適に微笑んで私の手をギュッと握りしめた。