その男、小悪魔につき。【停滞中】
「いきなり降ってきたなー。ちょっと濡れちゃいましたね。」
「うん、平気。上行ったら傘とタオル貸すね。あ、あとタクシーのお金も払わなきゃ」
二人で走ってエントランスに入ると、私のポストに手紙が数枚入っていた。
「勧誘ばっかり……あっ」
ペラペラと見ていると一枚の手紙が床に落ちた。
「拾いますよ。ん?これ……」
「ありがとう。」
何だろう?
宛先を見ると、あの二人の名前。
恐らくこれは織田さんと夏奈子さんの結婚式の招待状。
「……。」
「彩月さん、大丈夫?」
「へ……あ、うん!大丈夫大丈夫!」
乗り越えたはずの気持ちが、こんなにも簡単に膨れ上がってくるなんて……。
空笑いをして誤魔化すと、ポンと私の頭の上に手を置いた。
「雨止んでいる隙に帰ります。彩月さんまだ病み上がりなんですから暖かくして寝てください。それと、お酒は程々にするように」
「うっ……色々ご迷惑おかけしました。」
「ふふっ、気を付けてください?あ、明日って空いてます?」
「?うん」