その男、小悪魔につき。【停滞中】
すぐ耳の近くで千尋くんのその甘い掠れた声がして、慌てて肩を押した。
「そ、そんなおだてても何も出ないよっ」
「じゃあ……」
すると千尋くんは突然指を折っていってブツブツと呟いた。
「デート、遊園地、観覧車……目の前に彼氏」
「はい?」
「だーかーら、こういう事でしょ?」
そのまま掴まれていた手首をもう一度引き寄せられ、千尋くんの肩にあたったと思ったら唇に柔らかいものが触れていた。
「……ん…」
目の前には千尋くんの扇形のように伸びた睫毛が伏せられていて、私も次第に目を閉じた。
こんな関係のままこんな事をするのは駄目だと頭の中ではわかっているけど、体は正直だ。
顔にあたる前髪、私より筋肉質な肩、腰に回された腕……
全てに翻弄されて、私は惑わされている。