足跡が其処に

ありがとう

病院から出たら
雪が舞い降りていた
目の前に落ちてきた雪を
静かに手の平に乗せたら
すぐに消えてしまって
まるで貴方のようだと思ったよ

あの時一瞬だけ泣きそうな顔をしたのに
その次の瞬間には薄く微笑んで
――――ありがとう

この雪のように
すぐに変わってしまうんだ
切ないね
儚いね

貴方が居る病室の窓を
外から舞い落ちる雪と共に眺めていた
其処から見える貴方は
やっぱり其処から見える景色に恋焦がれて

どれくらい経ったのか判らない
ふと目があった瞬間に
周りの景色が白に変わっていることと
私が随分其処に留まっていたことに気付く

貴方は慌てて身を乗り出して
何かを叫んだけれど
偶然吹いた風に掻き消されて
私には届かなかった

ゆっくりと口だけを動かして
――――ありがとう
そう言ってみた
そう言ったらまた貴方は
一瞬だけ悲しそうな顔をして
――――ありがとう
手を振って私を見送った

私たちの合言葉