足跡が其処に
時が過ぎたとしても

貴方の居る部屋へ入るとき
何時も迷っている私
今日もまた花束を持って
貴方の居る真っ白な部屋へ

カーテンの向こう
もしかしたら貴方が泣いているんじゃないかと
一瞬だけ開けることに迷う
開けた瞬間に貴方は微笑むから
私も微笑むけれど

もうすぐなんだね

何時からか貴方は
窓の外の景色を眺めなくなった
どんなに外に希望があっても
もう叶わないんだと
貴方は悟ってしまったんだね

窓にかけてあるカーテンは
もうずっと開かれていない
人工の電気だけを頼りに
明るく照らして
涙なんて見せないように

微笑む貴方を見て
私も微笑んだけれど
そんな私を見て伸ばしかけた手を元に戻す貴方を見たら
無意識のうちに私の頬を涙が濡らして

そんな私の様子に
貴方は静かに静かに
手を伸ばして
抱きしめて
耳元で囁いた
――――ありがとう

最後だと言い聞かせて
無理に涙を止めて
貴方の笑顔を覚えていようと
微笑む貴方と他愛のない話をした

この時間が永遠に続けば良いと
心の中で儚い願いを宿して
何時の間にか覚えてしまったあのメロディーを
そっと貴方と口ずさむ

相変わらずお気に入りの薄い青色のパジャマと
あの優しい歌
ーーーーさようなら

貴方が居た部屋の窓を
外から何度見ても
貴方を見ることはなくなって

そんな貴方を想いながら
私は生きて

貴方を思い出している
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