足跡が其処に
冬の雪

落ちては溶ける雪を見つめる少女
その頬には雫の雨

あの部屋を見上げて
ありがとう
さようなら
そう呟いて

その建物を後にする

後ろは振り返らない
唇を噛み締めて
両手で表情を隠したあと

笑っていて

少年の言葉を思い出して
無理にでも笑顔を作る

雪が少女を真っ白な銀世界で包み込む
少女はゆっくりと白い息を吐いて
空を見つめ

少年の名を呟いた

生きるよ、私は

そう、言い残して
髪を靡かせて
雪の中、歩き続ける

それが、少女の
精一杯の少年への餞
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