足跡が其処に
春の舞

貴方の真っ白な部屋から見る桜の景色と
私が居る教室から見る桜の景色は
同じように優しく見えているだろうか

あの時とは違う
コンクリートの建物の中
ゆっくりと階段を上り
子供たちが元気良く私の横を走りぬけ
一番奥の部屋に貴方の名前を呼びながら飛び込んだ

困ったように
でも嬉しそうに笑う
貴方の顔が目に浮かぶ

私の足も少しだけ早足になり
貴方の部屋にゆっくり入る

子供たちと窓の外を眺めて
桜に歓声をあげる貴方は気付かない
「春だね」
ふいに貴方が語りかけるように呟くから
「春だね」
私も呟いた

目を見開いて
また視線を窓の外に戻す貴方の真似をして
私も窓の外に視線を移した

優しい桜の色が広がっていた
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