異国のシンデレラ
「ウィリアムっ!あったぞ!」
「……ここか」
私はすぐに伯爵夫妻を訪ねた。
クルミが消えてから一月半…私は退院した伯爵夫人から生まれて三十二年、初めて手を上げられた。
「追わないの?」
「…跡形もなく消えてしまいました…魔法のように」
「あなたの選んだ人でしょう?」
「…私は……」
「ウィリアムっ」
頬に感じた痛みに、私は何の事だかわからなかった。平手打ちをされたのも人生初だ。
「あなたを想って離れたのです…元はと言えば私が頭ごなしに否定した事も原因ではあります。点数稼ぎで命まで救ってくれるわけがないわ……」
「…伯爵夫人…」
「一度…きちんとミス遠野にはお礼もしなければなりません。それに…ゆっくり話もしてみたいわ」
「………」
伯爵夫人がクルミを認めた瞬間だった。入院中に医師やスタッフからクルミの話やミスフォーティアの話を聞いたらしく、彼女はスタッフに金を掴ませてありもしない徹夜の看病をでっち上げようとしていた。
「爵位だけであなたの伴侶を選ぼうとした私が間違っていたわ…私自身が爵位もない一般人だったから…エドワードに苦労をさせたから…」
「伯爵夫人が…?」
「だからあなたには苦労して欲しくなかった。あなたのお婆様は…死ぬまで私を認めては下さらなかったから…ただ曾お婆様だけが私によくして下さって…」
初めて聞かされた伯爵夫人の半生…大学で伯爵と知り合い、恋に変わり、結婚に至る事になったが、祖母は伯爵夫人に冷たく当たった。そんな中、曾祖母だけが伯爵夫人になるべく教育を施し、よくしてくれたと言う。日常的に伯爵と祖母は伯爵夫人の事で言い合いをし、病に倒れても最期の時にも、伯爵夫人を近付けなかった。
「エドワードの言うようにあなたの人生です…あなたの選んだ人を迎えてあげなければと考え直しました。私の二の舞にするわけにはいきません」
一月を丸々無駄にした。クルミの言葉を疑ったわけではないが、私は何を戸惑っていたのか…。
それから私はクルミの置いていったスーツケースを開けて、何から何まで全て調べ尽くした。その中から日本語表記のいくつかの紙切れや、渡英の際のチケットを見つけた。
日本語を読めない私はサイクスにも協力を頼み、紙切れを調べた。紙切れはレシートらしい。
英和辞典や世界地図を開いたのはどれほどぶりか…。中から日本の地名を洗い出し、日本地図から場所を探し出した。
「チケットの出発地と同じだ」
すぐにインターネットでその地名のデパートメントを検索する。
「一件…ここに間違いない」
「…やったな、ウィリアム」
「ああ!」
すぐに渡日の用意を整えたが、伯爵夫妻も同伴すると言い出した。私の未来の妻を迎えに行くのに、是非日本に出向きたいと言った。
クルミと離れて一月半…期待と不安を胸に、私は日本に向かった。
空港からタクシーでホテルに向かい、ホテルではスタッフにそのデパートメントについて詳しく訊いた。
この辺りでは知らぬ者はない大型店で、カスタマーサービスは一級品、英語を嗜むスタッフも多く、海外旅行者ならば必ず立ち寄ると評判のいいデパートメントだそうだ。
「特に最近カスタマーサービスの主任に就いた女性は素晴らしい方ですよ。是非お会いになるとよろしいかと」
クルミの事だと誰もがすぐわかる。
「本日は閉店時間も近いですから、明日行ってみては?」
通じるものの聞き辛い言葉に、クルミの発する言葉がいかに美しいかを再認識した。
「ミス遠野は特別なのだな…」
「全くね、なんてがさつな耳障りかしら」
伯爵夫妻も同感のよう。プレジデンシャルスイートは広々としていて、伯爵夫妻に私とサイクスが悠々と過ごせた。
翌日は開店時間すぐにデパートメントに足を運んだ。足を踏み入れてすぐに美しく流暢な英語のアナウンスが聞こえた。
『本日はご来店下さいまして誠にありがとうございます。お客様にカスタマーサービスよりご案内申し上げます』
『本日、当店では英語・中国語・ポルトガル語でのご対応が可能でございます。また介添えご希望のお客様のへの対応も致しております。ごゆっくりお買い回りできますよう、お手伝いさせていただいておりますので、お気軽に一階中央カスタマーサービスをお訪ね下さいませ。本日はご来店下さいまして、誠にありがとうございます』
「ミス遠野か…やはり彼女は素晴らしいクイーンズだな」
「ねぇ、あなた…私の介添えを頼んでくるわ」
「ステラ?」
「私は車椅子だし、十分に介添えを必要とする理由にはなるでしょう?」
だから私たちに席を外せと言う。万全でない伯爵夫人の為に車椅子を用意していたのだ。
伯爵夫人は自ら車椅子を動かして、一人カスタマーサービスに向かって行った――。
「……ここか」
私はすぐに伯爵夫妻を訪ねた。
クルミが消えてから一月半…私は退院した伯爵夫人から生まれて三十二年、初めて手を上げられた。
「追わないの?」
「…跡形もなく消えてしまいました…魔法のように」
「あなたの選んだ人でしょう?」
「…私は……」
「ウィリアムっ」
頬に感じた痛みに、私は何の事だかわからなかった。平手打ちをされたのも人生初だ。
「あなたを想って離れたのです…元はと言えば私が頭ごなしに否定した事も原因ではあります。点数稼ぎで命まで救ってくれるわけがないわ……」
「…伯爵夫人…」
「一度…きちんとミス遠野にはお礼もしなければなりません。それに…ゆっくり話もしてみたいわ」
「………」
伯爵夫人がクルミを認めた瞬間だった。入院中に医師やスタッフからクルミの話やミスフォーティアの話を聞いたらしく、彼女はスタッフに金を掴ませてありもしない徹夜の看病をでっち上げようとしていた。
「爵位だけであなたの伴侶を選ぼうとした私が間違っていたわ…私自身が爵位もない一般人だったから…エドワードに苦労をさせたから…」
「伯爵夫人が…?」
「だからあなたには苦労して欲しくなかった。あなたのお婆様は…死ぬまで私を認めては下さらなかったから…ただ曾お婆様だけが私によくして下さって…」
初めて聞かされた伯爵夫人の半生…大学で伯爵と知り合い、恋に変わり、結婚に至る事になったが、祖母は伯爵夫人に冷たく当たった。そんな中、曾祖母だけが伯爵夫人になるべく教育を施し、よくしてくれたと言う。日常的に伯爵と祖母は伯爵夫人の事で言い合いをし、病に倒れても最期の時にも、伯爵夫人を近付けなかった。
「エドワードの言うようにあなたの人生です…あなたの選んだ人を迎えてあげなければと考え直しました。私の二の舞にするわけにはいきません」
一月を丸々無駄にした。クルミの言葉を疑ったわけではないが、私は何を戸惑っていたのか…。
それから私はクルミの置いていったスーツケースを開けて、何から何まで全て調べ尽くした。その中から日本語表記のいくつかの紙切れや、渡英の際のチケットを見つけた。
日本語を読めない私はサイクスにも協力を頼み、紙切れを調べた。紙切れはレシートらしい。
英和辞典や世界地図を開いたのはどれほどぶりか…。中から日本の地名を洗い出し、日本地図から場所を探し出した。
「チケットの出発地と同じだ」
すぐにインターネットでその地名のデパートメントを検索する。
「一件…ここに間違いない」
「…やったな、ウィリアム」
「ああ!」
すぐに渡日の用意を整えたが、伯爵夫妻も同伴すると言い出した。私の未来の妻を迎えに行くのに、是非日本に出向きたいと言った。
クルミと離れて一月半…期待と不安を胸に、私は日本に向かった。
空港からタクシーでホテルに向かい、ホテルではスタッフにそのデパートメントについて詳しく訊いた。
この辺りでは知らぬ者はない大型店で、カスタマーサービスは一級品、英語を嗜むスタッフも多く、海外旅行者ならば必ず立ち寄ると評判のいいデパートメントだそうだ。
「特に最近カスタマーサービスの主任に就いた女性は素晴らしい方ですよ。是非お会いになるとよろしいかと」
クルミの事だと誰もがすぐわかる。
「本日は閉店時間も近いですから、明日行ってみては?」
通じるものの聞き辛い言葉に、クルミの発する言葉がいかに美しいかを再認識した。
「ミス遠野は特別なのだな…」
「全くね、なんてがさつな耳障りかしら」
伯爵夫妻も同感のよう。プレジデンシャルスイートは広々としていて、伯爵夫妻に私とサイクスが悠々と過ごせた。
翌日は開店時間すぐにデパートメントに足を運んだ。足を踏み入れてすぐに美しく流暢な英語のアナウンスが聞こえた。
『本日はご来店下さいまして誠にありがとうございます。お客様にカスタマーサービスよりご案内申し上げます』
『本日、当店では英語・中国語・ポルトガル語でのご対応が可能でございます。また介添えご希望のお客様のへの対応も致しております。ごゆっくりお買い回りできますよう、お手伝いさせていただいておりますので、お気軽に一階中央カスタマーサービスをお訪ね下さいませ。本日はご来店下さいまして、誠にありがとうございます』
「ミス遠野か…やはり彼女は素晴らしいクイーンズだな」
「ねぇ、あなた…私の介添えを頼んでくるわ」
「ステラ?」
「私は車椅子だし、十分に介添えを必要とする理由にはなるでしょう?」
だから私たちに席を外せと言う。万全でない伯爵夫人の為に車椅子を用意していたのだ。
伯爵夫人は自ら車椅子を動かして、一人カスタマーサービスに向かって行った――。