異国のシンデレラ
想い深まる
【愛してる…クルミ…君を愛してる】
甘い囁きと彼の優しい温もりと激しいほどの熱に、もう外の吹雪の音も聞こえない。流されるように唇にキスされて、それが次第に深くなって…。
絶え間なく愛してるって囁かれて、戸惑いも考える隙もないくらいに熱に浮かされて…。
「ぁ……ぁ、いしてる…愛…してる」
いつしか譫言のように彼の名前と愛してるを繰り返してた。彼はその度に愛してると返してくれて、熱すぎるくらいの熱を与えてくれた。
魔法に掛けられたみたいに、今まで躊躇っていたのが嘘みたいに、私は彼を求めてて…。求められるのが嬉しくて、何度も彼を呼んで愛してるって告げた。
目覚めると彼が優しくキスをくれた。
「おはよう、クルミ」
「ぁ…」
私の第一声は掠れてて…昨日はしたなく声を上げすぎたせいかと思うと恥ずかしい///
何だかまだ熱くてふわふわしてる。
「クルミ?」
「何でもな……っくしゅ…んっ」
くしゃみに彼が驚いたように起き上がり、額に手を当てた。
「クルミ…熱があるようだ……すまない…私がドレス一枚でホールに連れ出したから…」
「大丈……」
「起き上がれるかい?ガウンを着よう。薬を取ってくるから横になっていなさい」
「ホントに私……」
彼は私の言葉も聞かずにガウンを着せてくれて、横にさせると上掛けをしっかり掛け直した。慌てて彼も素肌にガウンを着込むと、紐を縛りながら出て行った。
昨日は気付かなかったけど、彼の匂いに包まれてふわふわ感は増した。自分で額に手をやると、やっぱり彼の言う通りに熱があるみたい。
「クルミ」
暫くすると彼がミスタートレマーと白いエプロンをした年輩女性と戻ってきた。
「失礼します」
女性はメイドさんらしくて、私の額に触れて顔を顰めた。
「お躯はいかがです?」
「少しふわふわするだけですから…」
「こちらでお熱を計って下さい」
体温計を渡されて、言われた通りに熱を計る。
軽い電子音に脇に挟んでいた体温計を抜いた。自分で確認する前にメイドさんがするりと手に取る。
「三十九度……風邪を召されていますね。お薬湯をお持ちしますから、暫くお待ち下さい」
「クルミ…苦しくはないか?」
「全く…無理強いするからだぞ、ウィリアム」
「すまない…クルミ」
「大丈夫…私、そのくらい熱があっても仕事してたから…」
「こんな高熱でも仕事だと!?一体日本の企業は何を考えているんだ!?休ませるべきだろう!」
「日本人は勤勉だと聞いてはいたが…それにしては度が過ぎるな」
「あ、あの……」
「労働者は家畜ではないんだぞ!?しかもクルミのようなか弱いレディにそんな扱いは…っ」
「人件費を考えれば採用を渋るのは経営側としてやむを得ない感もあるが、だからと言って福利厚生を疎かにするのは頂けないな」
「あの…だから……」
彼が怒鳴ったのを初めて聞いたけど…彼もミスタートレマーも飛躍しすぎな気が……。
暫く二人が日本人の勤勉さと日本企業の経営や人材の扱いについて熱く語っていると、メイドさんが薬湯とリゾットをカートに載せて戻ってきた。
「お仕事のお話でしたら余所で静かになさって下さい。ミス遠野のお躯に差し障ります」
二人にぴしゃりと言い放ち、私に向き直る。
「起き上がれますか?」
「はい」
彼がそっと助けてくれて起き上がる。カップには【薬湯】って響きに似つかわしくない甘い匂いのスープ。
「お口に合うかわかりませんが、お躯にはいいものですから我慢なさって下さいね」
「お気遣いありがとうございます……いただきます」
冷ましながら少しずつ口に含む…苦みはあるものの甘みで飲みやすくはなってるし、ハーブの香りが何だか落ち着く…。
「カモミールとペパーミント、ラズベリーリーフが入っています。カモミールとペパーミントは心身の緊張を抑えて、ラズベリーリーフは免疫力を高めます」
メイドさんの説明を聞きながら苦もなく飲み切れた。
「慣れない環境で疲れが一気に来たんでしょうから、暫くゆっくりお休みになるといいでしょう」
「すいません、ありがとうございます」
「リゾットも召し上がって下さい。しっかり食事をするのも大切ですよ」
「はい、いただきます」
カートの高さはベッドで座ったまま食べるのにも丁度の高さで、キノコのリゾットは薄味だけど何だかすごく美味しくて。
「ではミス遠野、ご予約していたホテルはキャンセルの連絡を入れておきます」
「調子がよくなられるまでは無闇にお部屋を出られませんように。これから悪化するかもしれませんから」
まさか~なんて思ってたけど、メイドさんの言った通りになって…。
「クルミ…クルミ、苦しいか?」
「…ぁ、少し…だけ」
「傍にいる…ゆっくりお休み?」
彼は上掛けの中に入ってきて、私に腕枕をしてくれた。何度も唇や額や頬にキスして、愛してるって言われながら、私はゆっくり眠りに落ちて行った――。