愛しさを抱きしめて

「なぁ、俺の前で弾いてみろよ」

聞いたことのある低い声。
顔を上げると微笑んでいる右京くんがいた。

「でも…間違えるから…」

わたしがそう言うと、右京くんは笑い出した。

「俺、時々お前のピアノ聞いてる。日和の弾くピアノの音好きだ」

その言葉がなんだかくすぐったくて、少し笑った。
椅子に腰をかけ、鍵盤に手を置く。
いつもと変わらないメロディー、同じテンポ、同じ指先。
クライマックスへ近づくにつれて、緊張してくる。
開いていた瞳を閉じて、自然に任せる。

「弾けた!!日和、よくやったな!」

同じところで指が動かなくなる、なんてなかった。
涙がポロポロと零れ落ちる。

「日和…?」

「どうしよう…嬉しい…」

涙が止まらなくて、制服の袖で瞳を擦る。
右京くんがわたしの袖を掴み、わたしの頬へキスを落とした。

「擦るなよ、後が残るから」
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