愛しい人
「あ~!お腹いっぱい」

ただでさえ大きくなったお腹をさすりながら言った。

「食べ過ぎ」

「出産に備えて、今のうちに好きな物を食べておかないと!」

150cmでチビな私と、170cmで騎手にしては背の高い久馬くんの視線がぶつかる。

「食べたら、運動だ」

意地の悪い微笑みを浮かべ、私の手をぐっと握って歩き出した。

「少し歩け」

「どこまで行くの?」

久馬くんは、それには応えず、ゆっくりと歩き出した。

この街に遊びに来たのはまだ結婚する前だった。
休日は、一緒にランチをするくらい。

『たまにはどこかに行こうよ!!』

私が言い出して、初めてデートらしいデートをしたのがここだった。

映画を観て、ランチをして、ウィンドーショッピングをしただけなのに、すごく新鮮な気持ちになった。

ふと、久馬くんが、見覚えのある店の前で足を止めた。

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