愛しい人
おやすみなさいのキスをして眠ってから、どれくらい経っただろうか…?

ふっ…と、下半身が不快になって目を覚ました。何かが…出てる…?

トイレに行こうと、体を起こした…。

「久馬くん!」

隣で眠る彼を揺すり起こした。

「どうした?痛いか?」

「痛くないんだけど…破水してるかも…?」

トイレに行くまでもなくこれが破水なんだと悟った。とりあえずナプキンをつけた。

病院に電話をすると、すぐ来るように言われた。日付は変わり、5月16日の1時を過ぎたところだった。

運転中、久馬くんが手を握ってくれていた。いつもより、ぐっと…。

『大丈夫』

そう言ってくれているような気がした。

まだ陣痛はなかったけど不安が大きくなった。

「こわい…」

「オマエはいつからそんな根性ナシになったんだ?」

悪夢を思い出して、こわくなってきた。目が潤んできた。

病院の駐車場に車を止めて、ゆっくりと降りた。久馬くんが、おっきなお腹ごと私を抱きしめた。

「こうやって…落ち着かせることしかできない」

しばらくの間、久馬くんの胸の鼓動を聞いていると、落ち着いてきた。

「いいよ。それで充分」

それで充分、貴方の愛は感じられるんだよ。

私も大変だけど、命がけで新しい世界へ飛び出してくる赤ちゃんも大変なんだから、こわがっている場合じゃない。

私が強くないと、赤ちゃんは安心して産まれてこれない。

「もう大丈夫。頑張るからっ!」


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