愛しい人
親になった朝
2013年5月16日
午前5時45分

新しい命が誕生した。

5月16日は、結婚記念日であり、自分の誕生日でもあった。

『…出てくるなら、オレのいる時にしてくれよ』

その言葉を聞いていたのか、予定日より2日早く産まれてくれたおかげで出産に立ち合えた。

女の子で、名前は『幸せに歩く』で『幸歩(ゆきほ)』に決めた。

母子ともに元気そうでなにより。

「久馬くん、私は大丈夫だから、仕事に行って。面会時間が来たら、お母さんたちが顔を出すだろうから」

「そっか」

さっきまで、この世のものとは思えないであろう痛みに耐えていたのに…本当に彩は強い女だ。

いや、強がっているだけかもしれない。

そんな彩が愛しくて、
そっと頬にキスをした。

「ありがとう。
愛してる…」

いつもは口にできない言葉が素直に零れた。

オレからの意外な言葉に彩はポロポロと涙した。

「頑張って良かった」

落ち着くまで髪を撫でてから、病室を後にした。
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