愛しい人
その後、トレセン内で会う人、会う人に『おめでとう』と言われた。

彩のご両親…孫が産まれたのがよっぽど嬉しかったんだろうな。オレが小山先生のところにいる間に、すっかり広まってるし!

照れくさかったけど、嬉しかった。流産して、一度は諦めかけていたから。オレは、彩が辛い思いをしてまで子どもを産む必要はないと思っていたけど、産まれてみれば…これほど愛しいものだと知った。

「父親になったんだってな?」

同期の大門成志だ。

「おかげさまで」

「おめでとう。オマエには言いたくないけど、彩ちゃんに、だ」


「どーも。彩に伝えておくよ」

「女の子だって?女の子だと父親に似るっていうから、気の毒だ」

「今のところ、彩に似てるからご心配なく」

「顔じゃない。性格!」

…ああ…。確かにオレに似たら、ロクな人間にならない。

「まぁ、性格は似てほしくないな」

はははと2人で笑った。

「落ち着いたら、顔見せて。彩ちゃんにも会いたいし」

「オレは来てほしくないけど、彩に会いたいなら仕方ない」

「ふん、オマエらしい」

大門は、そう言い残して去った。


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