エトワール~君が描く夜空~
――眼下に見える都会の光は、イルミネーションみたいで状況が状況でなければきっと私は見惚れていたことだろう。

死ぬ場所を求めて家を飛び出した私がついたのは、近くの高層マンションの屋上だった。

最近出来たそのマンションは、巷でも大きいと評判でそんな場所の屋上は、夜空がとっても近い。

見上げれば、手を伸ばせばつかめるんじゃないかって錯覚をおこしそうなほど近くに見える満月。

屋上をフェンスを乗り越えた私は、夜空をゆっくりと振り仰ぎ久しぶりに心からの微笑を浮かべた。




「――……綺麗」



夜空は、昔から大好きだった。

星座とか、そんなのは全く分からないけれど砂を振りまいたかのようにどこまでも続く星たちを見ていると、どうしてか心が洗われていくような気がしたから。

嫌なことや悲しいことがあった時、私はいつも空を見上げていた。

そうすれば全部全部、消えていくような気がして。

過去に思いをはせていると、ふと気がつく。

そう言えば、私が夜空を見上げなくなったのはいつ頃からだっただろう。

小首をかしげて、すぐに思い出して自嘲的な笑みを浮かべた。

嗚呼。そうだ。思いだした。

両親が、豹変してから1年がたったころからだ。

突然。何の前触れもなく浴びせられるようになった罵声。

まさか両親からそんなことを言われるなんて思わなかったから、とにかく悲しくて苦しくて。

毎日夜空を見上げて涙を流しながら両親が元に戻ることを祈っていたけれど、それも月日がたつにつれて意味をなさないことを理解した。

どれだけ願っても、私が望む優しい両親は帰って来ない。

どれだけ願っても、これは夢ではなく現実で。

久しぶりに見た夜空のせいだろうか。

息が出来ないほど胸が締め付けられて、私は思わずぎゅっと両手で胸の真ん中あたりを掴むと、耐えきれずにその場に座り込んだ。

苦しい。とってもとっても、苦しい。

酸素を求めて深く息を吸っても、途中で何かに遮られて呼吸もままならない。

――苦しい。

胸を抑えるようにして蹲っていると、不意にかしゃりとフェンスが泣いた。

驚いて顔をあげると、そこにはフェンスに背を預けた背の高い男性が一人。



「君も夜空を見に来たの?」

「――え?」



突拍子のない言葉に、私は思わず目を瞬かせた。






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