トーフマン
二メートルくらいの人型の怪物だった。
太い腕、太い体、太い足。その全ての部分に、びっしりと毛が生えていた。指は三本。先には長い爪がついていた。そして首から上は、獰猛なヒヒのような顔をしていた。よだれをたらしながら、甲高い唸り声をあげていた。
かゆい。足もかゆい。
おれは足をかきむしって、その怪物を見上げた。
怪物も、おれを見下ろした。
「・・・・・・勇一郎、逃げろ」
かすれた声がした。
親父だった。怪物達の足元で、親父が仰向けになって倒れていた。額から血を流していた。足が、変な方向に曲がっていた。親父は言った。
「こいつらは、シダバーだ」
「シダバー?」
しずかちゃんの話を思い出す。世界中に出没し、人々を襲う怪物の集団。こいつらが、そうなのか?なぜだ?なぜこんなのがこの町に?なんでおれの家に?
「頼む、おまえだけでも逃げてくれ・・・・・・」
・・・・・・おれだけでも?
親父の言葉がひっかかかった。
おれは聞いた。
「母さん達は?」
すると親父は、顔をくしゃくしゃにして、割れたテーブルの下を向いた。
おれは、その視線を追った。
そして、絶望した。
テーブルの下に、爪跡のついた死体がふたつ、積み重っていた。
母さんが死んでいた。
弟が死んでいた。