トーフマン
「・・・・・・・・・・・・」
冗談だろ?これは、なんの冗談だ?なんでうちなんだ。そんな、こんなことに巻き込まれるのは、うちじゃないだろう!うちは、なんでもない普通の豆腐屋だぞ。そんな、そんな、なんで、そんな。
体から力が抜けてゆく。頭の中が、グシャグシャに丸めた紙クズのようになる。
「ぼおっとするな!頼むから、早く逃げっ、っぐああああっ!」
親父が血を吐いた。怪物に腹を踏みつけられたのだ。
腹がかゆい。
「親父っ!!」
おれが駆けよろうとすると、もう一体の怪物が目の前に立ち塞がった。
かゆい。全身がかゆい。さっきから何なんだ、このかゆみは?
こんなことしている場合ではないというのに、体をかきむしらずにはいられない。
あちこちをかきむしるおれを見て、親父が弱々しく聞いた。
「勇一郎、おまえ・・・・・・、まさか・・・・・・、薬を飲まなかったのか?」
「あ、うん、ちょっと忘れてて」
「馬鹿野郎っ!!」
血を吐き散らしながら、親父は怒鳴った。
おれはとまどった。
確かに、薬を飲み忘れて、いまアレルギーらしい症状におそわれているが、いまはそんなことを叱っている場合ではないだろう。
それにしてもかゆい。かゆくて動けない。全身をかきむしることしかできない。
いま目の前に怪物がいる。早く親父を助けて逃げ出さないといけない、分かっているのに、動けない。かゆくて動けない。
かきむしっていて、気付いた。
肌が、熱くなっていた。体が、すごい熱を発している。肌だけではない。内臓も、脳も、まるで湯豆腐のように熱い。よく見ると、皮膚から湯気がふきだしていた。
おれは、恐怖した。何だこれは?一体何のアレルギーなんだ?どうなっているんだこの体は?
そのとき、目の前の怪物が、腕を振り上げた。
「危ないっ!」
親父が叫んだ。