トーフマン


とにかくおれは、この異常を受け入れることにした。


自分の肉体がどうにかなってしまったということ。


シダバーという怪物が、親父を狙っているということ。


この二つの事実を、いまは深く考えずにまず受け入れた。


「親父を襲わせはしないぞ」
おれは構えをとった。
子供の頃に習った、少林寺拳法の構え。
何年ぶりだろうか。
「おまえは、わたしの邪魔をするつもりなのだろうか?」
クモシダバーが、抑揚の無い声で聞く。頭部の蜘蛛の足が、ガサガサと激しく動く。気持ち悪い。怖い。
「あ、あ、ああ、そ、そ、そうだっ!」
本当は逃げたい。やせ我慢している。足が震えている。内股になっている。
「では、どいてもらうことにする」
「や、や、や、やってみろっ!」
声が裏返った。



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