トーフマン
クモシダバーが腕を振った。
また糸に引っ張られ、おれの体はぐうんと宙を舞った。
視界に一瞬、月が映ったあと、闇。
轟音。土煙。
背中に激痛。
ブロック塀に叩きつけられたのだ。
「あぐっ」
すごく痛かった。しかし全く怪我をしない。それがなんだか嫌だった。
「そこでじっとしていて」
クモシダバーが、白い煙のようなものをびゅっと吐いた。
糸だ。
それは素早くこちらに飛んでくると、巻きつき、おれの体をブロック塀に貼り付けた。
動きを封じられた。
必死に力をこめて暴れたが、糸は何重にも分厚く巻かれていて、うまくちぎれない。
やばい。
「親父!逃げろ!」
おれは叫んだ。おれはもうダメっぽい。親父だけでも逃げてもらわないと。
すると、親父は、はっとしてこちらに駆け寄ってきた。
何やってんだ、このオッサンは!
「バカ、アホ、逃げろって!」
「おまえはどうなる?」
親父は、道に転がっていた棒を拾って、それで糸をはがそうとした。
「よくわかんねえけど、あのシダバーが狙ってるのは、親父なんだろ?やばいって、逃げないと!」
「うるせえっ!」親父は怒鳴った。「おれは父親だ」
おれは思わず口をつぐむ。