トーフマン


黒ずくめの男は、音も無くこちらに迫ると、しゃがみ、とん、とおれの足を払った。


おれは派手に転んだ。顔面を道路にこすりつける。


男はおれの背に馬乗りになると、乱暴な手つきで、おれの腰に金属製の太いベルトのようなものを巻きつけた。腰がひやりとした。
「な、何だよそれ?っていうか、あんた誰?」
「うるせえ。おとなしくしてろ」
ぼかっと頭を殴られる。
「痛いっ」
おれが頭をおさえたときだ。


腰に巻かれたベルトが、一瞬光を放った。


すると、全身からかゆみがすうっと消えていった。


それだけではない。化け物の姿に変形していたおれの肉体が、ゆっくりともとに戻ってゆくのだ。


男はおれから離れた。


おれは立ち上がりながら、ぼうぜんと人間の姿に戻る自分の体を見つめた。
「これは、一体?」
男が言った。
「そのベルトは、TF細胞を制御する機能を備えている。その機能が、おまえの体を変化させたTF細胞の暴走を抑えているんだ」
「・・・・・・はあ?」
おれは首をかしげた。
説明の意味がよくわからない。TF細胞?何じゃそりゃ?
男は顔をしかめた。
「間抜けな面しやがって。・・・・・・くそ、なんでTF細胞は、こんなヤツを選んだんだ?なんで、おれじゃなくてこいつなんだ?」
また意味不明なことを言って、男は電柱を蹴った。


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