トーフマン
二十一年後の日常


カーステレオから、水木一郎のヒーローソングが大音量で流れていた。


昼、おれは豆腐配達用のワゴン車に乗って、ウキウキしながら駅に向かっていた。


あれから、二十一年がたち、おれ、深見勇一郎は二十七歳になった。


おれは、あの日の出来事を、ほとんど忘れてしまっていた。


地元の大学を卒業したあと、おれは実家の豆腐店の仕事を手伝っていた。朝早くに、卸し先のコンビニやスーパー、小学校の給食センターに、商品の豆腐を配達するのが、おれの役割だ。


早朝から働くのは最初はつらかったが、いまは早起きが気持ちいい。


午前中に仕事が終わるので、昼からは自由に過ごせるのが、この仕事のいいところだ。


午後一時半。


おれは、恋人の涼宮しずかと、駅で待ち合わせをしていた。



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