生徒会の恋愛事情


あたしは広いホールで思い出す。


黒いドレスに身を包み、微笑むショートヘアの女性…格好は全く違うけど、あの顔は間違いなく母親のものだった。


でもあたしはまた記憶を辿る。


子供のいない部屋で父と言い争う母親の声、食べていくのがやっとで痩せ細った体、家を出ていく時に最後にあたし達を見た時の顔…


あたしは首を振った。


全く同じ顔に見えたけど、全然違う雰囲気だった。


他人のそら似だろうか。


「…分からないけど、忘れよう。」


あたしは会場に戻ろうと振り返る。


だがその時だった。


「失礼。」


男性とぶつかりかけた。


「いえ。
こちらこそごめんなさい。
お怪我はありませんか?」


「大丈夫ですよ。」


そう言ってその男性はまた歩き出そうとした。


が、彼は振り返ってあたしの顔を見た。


「失礼ですが、どちらのお嬢様ですか?」



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