香る風の果て
「一緒に東京に来てほしい、結婚しよう」
篤史のくれた言葉が、熱を持ったまま胸の中で響いている。
その日のうちに篤史は東京に帰っていった。見送る時の寂しさはいつもと変わらないけれど、真っ直ぐ見つめて手を振ることができた。
篤史の残してくれた言葉が、強さとなって支えてくれていたから。
今まで素直になれなかった自分が恥ずかしい。でも、もう大丈夫。
祭りの余韻に浸る商店街を歩いていると、それぞれの地区へと帰っていく神輿が見えた。色とりどりの電飾に彩られて眩しい神輿を見上げる人々の歓声と太鼓の音が、普段は寂しい道を一変させている。
甘い香りを纏った風が、ふわりと夜空に舞い上がった。
-完-