香る風の果て
金木犀の花が咲く頃、この町では秋祭りが行われる。ここで生まれ育った人は、今は離れて暮らしていても祭りの時期になると帰ってくる。盆や正月と変わらない一大イベントだ。
『ゴメン、祭りは帰れない。仕事が忙しくて休めないから』
一昨日の夜、篤史(あつし)から届いたメールを見ながら、ひとつ息を吐いた。
未だに返事を出すことができないのは、何と返せばいいのか適当な言葉が浮かばないから。
本当はメールではなく、直接声が聴きたい。
だけど電話を掛けることができないのは、最近は仕事が忙しくて帰宅が遅いと聞いている。
篤史の邪魔をしてはいけない。負担になってはいけないと思うと、電話を掛けることができない。
篤史とは高校二年の時、同じクラスになって知り合った。最初は友達、いつの間にか付き合い始めていた。
やがて篤史は大学進学のため、上京することを選んだ。地元の大学に行きたい学部がないという理由で。そして上京したまま就職してしまった。
どうして地元で就職してくれなかったの、地元の大学に進学してくれなかったの、問い掛けたい気持ちは消えることなく未だに疼いてる。
今さら言っても、仕方ないことだとわかってるのに。
気持ちに蓋をするように、思いきり布団に潜り込んだ。