香る風の果て


うとうとし始めた頃、手の中で携帯電話が震えた。飛び起きて着信を確認した途端、すっと肩の力が抜けていく。


「友紀(ゆき)、もう寝てたの?」


夜の十時を過ぎたというのに、理央(りお)の声は生き生きとしている。相変わらずの夜型だ。


「うん、寝てた」

「ったく、友紀はお子様だね。来週の祭り、どうする? 篤史君、帰ってくるって?」

「ううん、仕事が忙しいから帰れないんだって」

「ふうん、仕事っていうけど一日ぐらい休めそうなのにねぇ? 仕事なんて、一人ぐらい欠けても意外と成り立つもんだよ」


理央は頼もしい。私が思っていることを、的確に言葉にしてくれる。


理央は幼馴染みで親友。篤史と知り合うよりも前、幼稚園の頃からの付き合いだから私のことをよくわかってくれている。


「それで、友紀は何て返事したの?」

「ん? まだ、返事してない」

「まだ? じゃあ……電話したら? 直接話した方が伝わるかもよ?」

「電話は……やめとく。最近忙しくて帰りが遅いって言ってたから、メールで返すからいいよ」


電話する勇気はない。
遠い所でひとりで頑張っている篤史に、迷惑を掛けてはいけないと思ってしまうから。





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