香る風の果て
神社へと向かう前に、お腹が悲鳴を上げ始める。
「お腹空いてきたよね、何か食べようか」
「久しぶりにお肉屋さんのコロッケが食べたいかも」
「駅前の?」
理央の答えに、思わず聞き返してしまった。仕事帰りに駅で待ち合わせて、さっき合流して商店街から参道を歩き始めたのに、また駅前まで引き返すと言うのだから。
だけど、お腹が空いているのには勝てない。
「よし、行こう」
「友紀、ありがとう」
私たちは方向転換して、駅の方へと人波に逆らって歩き始めた。
空きっ腹を刺激する匂いに紛れて、甘く優しい香りが風に運ばれてくる。たっぷり香りを含んだ風は、私たちの髪を撫でながら緩やかに通り過ぎていく。
香りに誘われて、振り向いた。
視線の先に、見覚えのある後ろ姿が映り込む。
答えを確かめる前に、後ろ姿は人波に飲み込まれて消えていく。
「友紀? どうしたの?」
「さっき、篤史に似た人が、そこにいたような気がしたんだけど……」
目を凝らしたけど商店街を流れる人たちの中に、篤史の姿を見つけることはできない。
「ホントに? 帰ってこれたの? 電話は入ってない?」
理央に言われて携帯電話を確認したけど、着信はない。帰ってきたのなら、まずは連絡してくれるはずなのに。