香る風の果て
「美味しい、ほこほこして懐かしいね」
「あの頃と全然変わってないよね、ここより美味しいコロッケ、食べたことないかも」
揚げたてのコロッケを頬張りながら笑い合うと、気持ちは高校生の頃に戻っていた。電車通学の帰り道、二人で商店街を歩いた思い出が蘇る。
「私、毎日この店の前を通ってるのに、どうして買わなかったんだろう」
「近すぎるといつでも買えるからって、置き去りにしてしまうものなんだよ」
理央の悟ったような言葉は、どこか重く感じられる。
篤史と私は?
篤史がここに居てくれたら、多少会えなくても気にしないのだろうか。
「理央とはずっと一緒だよ、置き去りになんてしない」
真剣な顔で言ったら、理央がぷっと吹き出して腕を組んできた。
「当たり前、何を今さら……私も友紀とはずっと一緒だと思ってるんだから」
「でもさ、私たち怪しくない?」
「うん? 大丈夫。ほら、あの子たちも繋いでるし」
理央の指差した先、女子高生らしき二人が肩を寄せて恋人繋ぎしてる。
風に乗った甘い香りが、人波を駆け抜けていく。
「いい匂い……」
「金木犀だね」
香りを追った人波の中に、祭りには不釣合いなスーツ姿の男性がいるのに気づいた。